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那覇地方裁判所 昭和60年(ワ)134号 判決 1986年8月11日

原告

城間清良

被告

狩俣久夫

主文

一  被告は、原告に対し、金七二一万五、七五〇円及びこれに対する昭和五九年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一、一九七万二五一四円及びこれに対する昭和五九年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

原告は、昭和四九年三月一四日午前一一時三〇分ころ浦添市字内間三三番地津波商店前路上において、タクシーに乗車しようとした際、被告が運転する乗用車に衝突され、大腿部骨折等の傷害を負つた(以下本件事故という。)。

2  (被告の責任)

被告は、飲酒の上乗用車を運転し、前方注視義務を怠つたため、本件事故を起こした。

3  (原告の後遺症)

原告は、本件事故後右大腿骨骨折の治療を受けたが、十分に静養をすることなくすぐさま喫茶店店員等をして稼働し始めたため、昭和五六年ころから右膝関節に痛みを感じるようになるとともに、右股関節・膝関節機能障害を来し、その原因は、本件事故に伴う右膝前十字靭帯傷害によるもので、同靭帯の修復が必要であつたため、昭和五八年八月一日から同年一〇月二二日まで那覇市立病院に入院し、手術を受けたが、昭和五九年九月二六日次のとおりの後遺症(以下本件後遺症という。)が固定した。

(一) 右膝拘縮のため正座及び右膝関節の自動による一三五度、他動による一四〇度以上の屈曲が不可能である。

(二) 一時間以上の歩行及び階段の昇降により膝関節痛を生じる。

(三) 走行及び早歩きが困難である。

4  (原告の損害)

原告は、前記各後遺症により次のとおり損害を被つた。

(一) 休業損害 金一〇八万〇、五三〇円

原告は、昭和五八年七月二五日から同年九月二六日までの間三八日間通院治療を受け、更に前記のとおり八三日間入院治療を続けており、その間少なくとも一日金八、九三〇円の収入を得たものと推定されるから、原告の休業損害を算定すると、金一〇八万〇、五三〇円となる。

8,930円/日×(83日+38日)=108万0,530円

(二) 逸失利益 金九五九万〇、五八四円

原告は、稼働可能な期間中少なくとも平均して二八歳男子平均給与月額にあたる金二六万七、九〇〇円の収入は得るものと推定され、固定した原告の本件後遺症は、自動車損害賠償保障法施行令後遺障害等級表第一二級に該当するところ、右第一二級は、労働基準法施行規則所定の身体障害等級表第一二級に該当し、その労働能力喪失率は一四パーセントであるから、中間利息の控除につきホフマン式計算法を用いて、原告の逸失利益を算定すれば、金九五九万〇、五八四円となる。

26万7,900円/月×12月×0.14(労働能力喪失率)×21.309(ホフマン係数)=959万0,584円

(三) 慰藉料 金一三〇万一、四〇〇円

(1) 原告は、前記各後遺症のため実日数一二一日間の入通院治療を強いられ、その精神的苦痛を慰藉する金額としては、一日あたり金三、四〇〇円合計金四一万一、四〇〇円が相当である。

3,400円/日×121日=41万1,400円

(2) 原告は、固定した本件後遺症により今後生活の不自由を余儀なくされるのであり、その精神的苦痛を慰藉すべき金額として金八九万円が相当である。

よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害合計金一、一九七万二五一四円及びこれに対する原告の後遺症固定時である昭和五九年九月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2項の各事実は、いずれも認める。

2  同3項の事実のうち、原告の後遺症が本件事故に基づくものであることは否認し、その余の事実は不知。

3  同4項の各事実は、いずれも不知。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2項の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  請求原因3項の事実について検討するに、成立に争いがない甲第二ないし第四、第六号証、証人長嶺功一の証言及び原告本人尋問の結果(第一、第二回)を総合すると、次の各事実を認めることができる。

1  原告は、右膝関節痛を治療するため、昭和五八年六月一三日沖縄県立中部病院を訪れたところ、医師長嶺功一から右膝前十字靭帯損傷との診断を受け、引き続き昭和五八年八月一日から同年一〇月二二日まで那覇市立病院に入院し、その結果右膝前十字靭帯の断裂が認められたため、医師山里二郎から靭帯再建の方法による手術を受けて、右膝前十字靭帯の傷害は治癒したが、それまでに右傷害により生じた右膝拘縮及び右大腿部筋委縮の症状が残り、昭和五九年九月二六日右症状に基づく本件後遺症が回復見込みのないものとして固定するに至つた。

2  原告は、本件事故により右大腿骨骨折、左大腿、前額部及び左骨盤の各挫傷の傷害を受け、昭和四九年三月一五日沖縄県立中部病院に収容され、右大腿骨骨折については、前記医師長嶺の手で、骨折部分を開披しない閉鎖性髄内針法による手術を受け、右骨折は治癒したが、その後も右膝関節の痛みは消失することなく続いていた。十字靭帯損傷は、下肢関節内の靭帯が、強い外圧により損傷を受けることであり、大腿骨骨折に伴つて生じることも十分に可能性がある上、受傷後一〇年余りが経過してのちに、十字靭帯損傷に伴う関節の動揺がひどくなり、自覚症状としての関節痛を訴えるようになることも少なくないところ、原告は、本件事故以後、昭和五八年六月一三日沖縄県立中部病院において再び前記医師長嶺から診察を受けるまでの間は、通常の日常生活を送つてきており、右膝に対して、前十字靭帯の傷害を伴うほどの強い外圧が加わる機会のある仕事に従事し、あるいはそのような事故に遭遇した形跡をうかがうこともできない。

右各事実に徴するときは、原告の本件後遺症の存在及び本件後遺症が本件事故によつて生じた右膝前十字靭帯の傷害に基づくものであることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

三  次に請求原因4項の各事実を検討する。

1  休業損害 金六〇万五、〇〇〇円

前示甲第四号証によれば、原告は、昭和五八年七月二五日から昭和五九年九月二六日までの間、前記各後遺症を治療するため、那覇市立病院に八三日間入院し、三八日間通院し、右期間中二六歳及び二七歳であつたことが認められ、原告本人尋問の結果(第一、第二回)によれば、原告は、現在定職についていないものの、中学校卒業後、大工、鉄筋工、コツク、ボーイ、チリ紙交換、石焼いも売り、パチンコ店店員などの職業に従事してきており、本件後遺症固定後も、警備員をするなど、労働する意欲は有しているものと認められるところ、成立に争いがない乙第一号証によると、労働省賃金構造基本統計調査報告の結果昭和五八年のパートタイム労働者を除く労働者のうち新制中学校を卒業した二五歳から二九歳までの男子労働者が一〇人以上九九人以下の労働者を雇用する事業所で働いた場合の平均きまつて支給する現金給与月額は金一九万七、六〇〇円であつたことが認められ、右給与月額を考慮すると、原告が右入通院期間中得たであろう給与日額は少なくとも金五、〇〇〇円はあつたものと推認することができるから、これを基礎に原告の休業損害を計算すると金六〇万五、〇〇〇円となる。

5,000円/日×121日=60万5,000円

2  逸失利益 金五四一万〇、七五〇円

前示甲第四号証によれば、原告は、本件後遺症固定時の昭和五九年九月二六日には二七歳であつたことが認められ、前示認定の原告の学歴、職歴及び労働意欲に前示乙第一号証により労働省賃金構造基本統計調査報告の結果昭和五九年パートタイムを除く労働者のうち新制中学校を卒業した男子労働者が一〇人以上九九人以下の労働者を雇用する事業所で働いた場合の平均年間給与額は金三一〇万七、一〇〇円であつたと認められることを考慮すると、原告が本件後遺症固定時以後に得たであろう年間給与額は、平均して少なくとも金二五〇万円はあつたものと推認することができる。

前示乙第一号証によれば、労働基準法施行規則所定の身体障害等級表第一二級にいう下肢の関節機能に障害を残すものとは、機能に障害のある関節の運動可能域が障害のない方の関節の運動可能域の四分の三以下に制限されているものとされているところ、前示甲第四、第六号証によれば、原告の本件後遺症は、右膝関節の運動可能域が零度から一三五度の範囲にあり、他方において障害のない左膝関節の運動可能域は零度から一五〇度であると認められるから、原告の本件後遺症は、右第一二級に該当するものとはいうことができず、右障害の程度及び本件後遺症が日常生活に与える支障等に照らして、一〇パーセントの労働能力喪失をもたらすものと認定するのが相当である。

右各事実及び中間利息の控除につき昭和五九年二七歳の者についてのホフマン係数を基礎にして、原告の逸失利益を計算すると、次のとおり金五四一万〇、七五〇円となる。

250万0,000円/年×0.1(労働能力喪失率)×21.643(ホフマン係数)=541万0,750円

3  慰藉料 金一二〇万円

原告は、前示認定のとおり、前記後遺症を治療するため一二一日間那覇市立病院に入通院することを余儀なくされ、本件後遺症のために今後の生活においても、少なからぬ支障を強いられるのであり、相当の心身の苦痛を被つていることは推察するに難くない。しかしながら、他方において証人長嶺功一の証言によると、原告は本件事故直後沖縄県立中部病院で治療を受けた際、右大腿骨骨折に伴う他の傷害について十分な診察を受けないうちに通院をやめ、その後約九年を経過して前記後遺症が判明したことを認めることができ、右事情をも考慮すると、原告の右精神的苦痛を慰藉するためには、金一二〇万円をもつてするのが相当である。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は、右損害合計金七二一万五、七五〇円及びこれに対する本件後遺症が固定した昭和五九年九月二六日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口雅高)

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